「エスメ、冬日記 1999」

昨年12月1日より、ニュージーランド、キーウエスト、ニュージーランド、マイアミと、長旅のあげくにやっと日本に帰って来ました。
正月は久しぶりに日本で過ごしたんですけどね。事実上は3ヶ月以上も南の方をさすらっていたってわけ。
で、ホームページも全然更新していなかったんです。
(海外にいる時は、NIFTYでメイルだけチェックしているんです)

今年の<エスメラルダ>チームは、マム30クラスでのアメリカ転戦です。
マム30は、今アメリカで人気のワンデザイン、アマチュアヘルムクラス。
第1戦、キーウエストレースウイークは26艇中15位。初めて乗ったマム30でオーナーヘルム。3位も一回取ったので満足の成績。
第2戦、マイアミのSORCでは9艇中6位。2位を2回取ったんですけど、ビリを3回もとってしまい、それも上マークアプローチでのケースでクルクル回るはI旗ヒラヒラさせるわで散々。

ちなみにアメリカでの主流は、720度回転かI旗かどちらかを選ぶことができるという方式。
後ろから続々と来ている時はI旗。余裕のあるときは720度回転と、有利な方を選ぶことができます。その分、艇上では揉めたりするんだけど。




マム30という船は、とにかく速い船です。
日本にも何隻か浮いているけれど、その性能をはたしてどこまで引き出しているか。
特に軽風時の走りにはちょっとしたコツがあり、ハマれば信じられないような角度とスピードで走り続けます。
いずれ劣らぬ強者揃いのフリートの中で揉まれているとその差は歴然。一人走りしていたのでは気が付かないかも。
我々はどうにかスピードでは他艇にひけをとらないようになりました。

マム30を初め、今アメリカで流行っているワンデザイン艇は、いずれもオーバーラップのないジブを持つリグ。
これは、サイドステイがデッキの幅いっぱいにとれるということで、大きくスイングバックした長いスプレッダーが特徴です。
ジブが小さいので軽風性能が悪いのでは……と思ってしまうのですが、じつはメインが巨大なので軽風でも非常に速いのです。オマケに、オーバーラップのないヘッドセイルは引き込み角度が稼げるので上り角度も良。但し、へたすると失速……という事になるわけです。

このてのリグはマストのチューニングが難しく、ハズすと全然走りません。
アッパーはまったくいじらないものの、フォアステイは風速によってターンバックル1本分(約20p)調節します。
フォアステイを絞める事によって、自動的にロアーにもテンションがかかるので、こちらは1回転。V2は2回転程調整します。
レース中は調整を禁じられているので、スタート前に風速を判断してセッティングしなくてはなりません。
ケン・リードに言わせると、スタート前にやることがいっぱいあるので、普通のヨットよりも30分早くレース海面に出ろ、とのこと。

このリグはIMSでもハンディキャップ的に有利で、例えば<ビッグアップル>等でも採用されています。コレル45がIMSフリートでも比較的いい成績を残す事ができるのも、リグのハンディキャップが有利だからであるといえそうです。
とはいえ、調整の自由度が低いので、ケンウッドカップのように、コンディションがある程度一定している海面で威力を発揮するという事です。
<ビッグアップル>は、ケンウッドカップで見事に優勝しています。
……とは、ケン・リードのケンウッドカップ敗戦の弁ではありますが。



 来年50ftの新艇を建造予定している植松オーナー。造船所もセイルメーカーも決まっているので、あとはデザイナー。今のところブルース・ファーが本命なるも、アメリカでのネルソン/マレック(N/M)の評判もよろしい。
そこで、マイアミではN/M社のブルース・ネルソン氏と会談。セイルメーカーのケン・リード、エリック・ゴーツ造船所のヘイル・ウオルコフらと共に、お話を聞きました。
向こうにしても、アメリカズカップが終わった後に始まるキャンペーンは美味しいところ。売り込みに必死であります。
(とはいえ、結局は単に一緒に酒を飲んだって感じ?)

アメリカ人セイラー間でのブルース・ネルソン評は「すばらしいセイラーにして人格者」というもの。対してブルース・ファー評は、その実績こそすばらしいものの一緒に仕事をするのは「ちょっとやりにくい」という感じのようです。
僕にとってはブルース・ファーも紳士的で結構気さくな方、という印象を受けているのですが、彼がニュージーランド人であるという事もあるのか、あるいは彼が非常に忙しく「その他」にもいっぱいキャンペーンを抱えているからという事もあるのか、ブルース・ネルソン贔屓のアメリカ人が多いように感じます。

デザイナーとしてどちらがいいのかはさておいて、僕の一番の疑念は、はたしてIMSはいつまで続くのか? という根本的な事。事実、現在アメリカでは40ft以下はほとんどがワンデザインになってしまっています。
と、ケン・リードが、
「でも、1D48はすでに生産を中止しているし、コレル45もあんな感じだし」との意見。
「でも、次々回のアドミでIMS50が採用されなくなったら急速に廃れていくのではないか? そこで、より魅力的なワンデザイン50ができたら、人々はそちらにドドッと流れていく、なんて事はないのか?」と、僕。
ブルース・ネルソンは、
「ワンデザイン艇というのは、艇数が集まらなくては話にならない。50フィートでフリートを作るのはかなり難しいと思う。このクラスのオーナーは、人より速い船を欲しがるものなのだ」
「植松さんみたいにね」とケン。
「今、オーナー層は大きく二つに別れつつあるようだ」と、ブルース・ネルソンは説明。
つまり、オーナーには、ワンデザインで自ら舵を持ち楽しむ層と、人より速い艇を建造し、チームを率いる層と二通りいるという事。で、グランプリルールとして、IMSに代わるものは、そうそう簡単にはできないのでは? というのがブルース・ネルソンの意見でありました。



IMS下でのグランプリレーサーというのは、ハンディキャップとの戦いです。
このあたりがどうも矛盾を生じるのではないかと最近感じるのですが、詳しくは『KAZI 5月号』のたかつき総研をご覧ください。

今のところ、ファーデザインの50ft艇はカーボン製のようですが、N/Mは問題外にケブラーだ、と言っております。ここのあたりが面白いところですが、これは、どちらが速いという事ではなくて、どちらがレーティング上有利かという事なわけです。

ブルース・ネルソンのデザイン艇はフリーボードが高いのですが、これは、ハルの剛性を高めるためとの事。これによって、ケブラーでも十分に堅いハルを作ることができるのだそうです。
オマケに、アウタースキンは、ABSのルール上カーボンにすると厚みを増さなくてはならなく、重量軽減のメリットは減ってしまうんだそうです。
ABSは船の建造上の規格なのですが、ケブラーと比べカーボンは衝撃に弱く、その分厚みを増さなくてはならないという事。ORCのスペシャルレギュレーションでABSルールが適用されるわけですな。

値段的には、ケブラーもカーボンもほとんどかわらないので、このあたりのレーティング上の損得は結構悩むところでしょう。
ちなみにPBOという新素材も検討されましたが、どうやらルール上認められないようです。
セイルの素材としてはカーボンは認められていないので、PBOが増えてきています。
コガネムシの背中のような色の素材です。僕がいないうちに、日本でも使用されているのかな?

ちょっと世間知らずなワタクシです。


 ……っと、ヨットレースの事ばかり考えていたわけではありません。ニュージーランドではしっかり鱒釣りにも行ってきました。
今年はあつしが来られなかったので低調なるも、車にテンダーを積んでムルパラへ。
レイク・アニフェヌアという湖でボート釣りです。
いいキャンプ場を見つけたので、次回はここを基地にしてじっくり釣りたいものです。
もっとも、宿泊したモーテルも、2ベットルームの部屋が1泊48ドル。4人で泊まれば一人12ドルですから、1000円しないんですけどね。

ニュージーランドはいいですわ。
マイアミの喧噪は、僕には合わないっす。

え、鱒?
40pのレインボウでした。
あつしがいないと、なかなかだめですわ。


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